三田三昭堂オリジナル飾り原稿用紙

「躑躅鑑」の誕生秘話

文・小日向 京

 飾り原稿用紙はあたぼうさん、デザイナーhoririumさん、文具ライター小日向 京のコラボレーション製品です。飾り枠のついたA4サイズ400字詰の原稿用紙で、2015年5月の発売いらい様々な柄と色で展開されています。
 その飾り原稿用紙のオリジナル版を作りたい! と仰る文具店がおいでで、2018年に創業90周年を迎えた三田三昭堂さんでした。
 製品の監修者である小日向 京が、誕生秘話をまとめます。

斬新な老舗文具店は館林にあり

 三田三昭堂さんは、群馬県館林市にある文具店です。昭和3(1928)年の創業いらい印章製造販売を中心に営業を続け、平成28(2016)年には名入れ文具やオリジナル万年筆などを扱う「あなたブランド」を開店。地元の人々にはもちろん、他所からも足繁く訪れる文具好きの多い名店です。

 三田三昭堂さんがある館林は、人口約8万人の大変歴史ある街です。2万年前の旧石器時代にはすでに館林で人が生活していたことが明らかになっているそうですが、それは遡りすぎとして、室町時代の15世紀には館林城が築城されていたといい、江戸時代には徳川五代将軍綱吉もかつての館林城城主でした。


 館林城築城の謂われには、大袋城城主・赤井照光が子狐を助けたところ親狐が礼に現れ、「ここに城を築くと良い」と館林を示し、尻尾をひいて城の設計図まで記したとの伝説が残されており、そこから館林城は別名「尾曳(おびき)城」とも呼ばれています。
 また館林城城郭の北東・鬼門にあたる位置に建立され、今も館林の名所となっているのが、狐が祀られる尾曳神社です。
 そして曹洞宗の寺院・青龍山茂林寺(もりんじ)は、お湯を汲んでも汲んでも湯が尽きることのない茶釜を狸の化身がもたらした寺といわれ、福を分け与えることになぞらえて「分福茶釜」の伝説となりました。
 狐と狸の御利益があることは、館林を知るうえで欠かせない逸話です。

 一方で現在、館林にある有名な企業が「日清製粉(旧館林製粉)」です。館林は小麦の栽培も盛んな地。地元産の小麦を使ったうどんを作る試みもなされました。
 うどんといえば、きつねとたぬき…? これもまた、狐と狸の御利益のひとつなのかも知れません。

 こうした歴史や逸話にあふれる館林には、世界に誇る有名な植物があります。
 それが、ツツジの花です。
 17世紀に上野館林藩主・榊原忠次がツツジの木を多数移植したことにはじまり、領民たちがツツジの花を楽しめるようにと植えられた場所は現在つつじが岡公園となって、ツツジの木々は館林の人々の手で400年近く守り続けられています。

 こうした背景のもと、館林の文化に寄り添い続けてきた三田三昭堂さんの社長は現在三代目。家業を継いで四半世紀超という、三田英彦さんです。

あたぼうさん、館林へ行く

 あたぼうさんはある時に「三田三昭堂さんに伺おう」と思い立ち、何ものかにつき動かされるようにして館林へ向かいました。あたたかく迎えたのは三田社長。飾り原稿用紙という弊社の製品がありまして…と話すあたぼうさんに、
 「私どもの創業90周年の記念になるオリジナル飾り原稿用紙を作ってもらえませんか」
と三田社長はおっしゃったのです。
 なんというめぐりあわせの御縁! 館林の狐が導いてくれたかのようです。
 三田社長の御要望は、飾り枠へツツジを主軸とした館林を物語る要素をふんだんに取り入れてもらいたいとのこと。
「ついてはツツジが満開の頃に、皆様で館林へお越しください」とのお話でした。

 館林のツツジの花は4月上旬から鮮やかとなり、4月下旬~ゴールデンウィークが満開の見頃となります。例年4月上旬~5月上旬には、つつじが岡公園で「館林つつじまつり」が開催され、それに合わせての館林訪問となりました。
 混雑を避けたゴールデンウィーク前にあたぼうさん、hoririumさん、小日向の3人で館林へ向かうと、三田社長の御案内で訪れたつつじが岡公園は色鮮やかなツツジの花、花、花!!
 しかもそのツツジの木が、とてつもなく大きいのです。私たちがこれまでに見ていた生け垣などのツツジはなんだったのか? と思うほどに。
 戦火を逃れた樹齢400年に迫るツツジもあるのですから、館林の人々がいかにツツジを心の拠りどころとしていたのか…と胸が熱くなりました。

原稿用紙にツツジが咲き乱れる

 そして打合せを交え、オリジナル飾り原稿用紙の作業を開始。hoririumさんのデザインとの格闘が始まりました。
 ツツジの花をどのように並べれば、あの館林の見事な満開のツツジになるのか?
 そもそもツツジの花をどのように描くか?
 他の館林を物語る要素をどのように盛り込むか?
 hoririumさんは、その後も再ひ館林へ足を運び、じっくりツツジを観察したといいます。

 これまでの飾り原稿用紙は1色刷りでしたが、ツツジの花を効果的に見せるため、また館林にゆかりあるもの──上に書いた狐や狸、それらにまつわる品など──を見せるため、あたぼうさんは初の2色刷りを提案。
 小日向は皆の経緯を伺いながら、館林の狐の神様に成功を願うべく日々油揚げを購入。昨年は本当によく油揚げをいただきました。

 三田社長の確認は館林の誇りと威厳をもって行われ、大変に鋭く、またこだわりぬいたコメントをいただきました。
 飾り枠に始まり、狐と狸、また魚尾にのせるワンポイントの形状までいくつもの図案を用意し、hoririumさんは三田社長の要望に全力で応えました。
 そして数か月にわたるやりとりを経て、ついに絵柄が完成したのです。

柄名はとにかく画数が多い!

 最後に柄の名を…となって、小日向はこれまでの飾り原稿用紙の柄名と同じく漢字3文字で考えをめぐらせました。
 ツツジを漢字表記にすると「躑躅」。この漢字は小さくすると線の見分けがつかなくなるほどに画数が多く、内部がどうなっていたのだか瞬間で忘れてしまいがちな文字ですが、何度も書いているとだんだん構造が見えてきて、パーツの配置に思わず入れ込んでしまう作りをしています。
 ここにあと1文字、どの漢字を合わせるか。様々に模索した結果、「(かがみ)」とすることにしました。
 理由は以下の通りです。

◆「鑑/かがみ」には手本の意味がある
◆館林のツツジは、これぞツツジという手本のような理想形である
◆鑑=鏡と同じ読みでもあり、神社の祭壇の鏡を連想させる
◆ものの真偽性を確認する意味があり、狐と狸の伝承能力「化けて物事を導く」という点にも通じる
◆三田三昭堂さんが長年携わってこられた印章製造販売である印鑑の「鑑」でもある

 そして命名がなされ、三田三昭堂さんのオリジナル飾り原稿用紙「躑躅鑑」が出来上がった次第です。

 発売後には三田三昭堂さんの本店そしてあなたブランドでも好評を博し、またネットショップでも評判となって、楽天の原稿用紙売上ランキングで1位もマーク。館林の人たちにも、また三田三昭堂を訪れる文具好きにも愛される品となっています。
 今年もまた、館林にツツジが花咲く季節となりました。
 ぜひ、躑躅鑑を手に館林を訪れてみてください。


ご購入は、三田三昭堂さんへ直接、ご来店になるか(こちらをお勧めします)、楽天市場のあなたブランド店でどうぞ。

2018年4月13日公開