飾り原稿用紙 蜜柑網の誕生秘話

文・あたぼう代表取締役 佐川博樹

 飾り原稿用紙は、デザイナーのhoririum氏、文具ライターの小日向京氏、そしてあたぼうの佐川のコラボレーションで生まれています。今回、2019年3月に発売した「蜜柑網」の誕生秘話について記しておこうと思います。


はじめのアイデアは不発

鋼導管の次ということで、、、

飾り原稿用紙ユーザーの皆さんは既にご存知かと思いますが、前作「鋼導管」では余白も含めデザインし、一種、既存の概念を外してしまいました。これは、デザイナーのhoririum氏のアイデアが元になっており、これまでの原稿用紙の殻を破るデザインとなりました。

 

「これ、管のつなぎ方とかがちゃんとしているね」

 

と配管業者さんからもお墨付きを頂いているという優れものです笑

そのような製品の次、ということで、非常に困ったことを覚えていますが、なんとかまたユーザーの皆さんに楽しんでもらえるものをと考えていました。

 

画期的アイデアが浮かんだけど、、、

それが頭の隅にありながら、色の選択からはじめた記憶があります。候補はいくつかありましたが、オレンジが良いだろうと考えていました。そして、チャレンジしたいアイデアがありました。画期的アイデアだったのですが、、、

 

印刷工場に相談すると「佐川さん、それはちょっと無理があるよぉ」との回答。それでも実験してみたいと申し上げると、やってくれましたが、、、あえなく失敗笑。やはり、専門家の言うことは一理あります。実際、この相談はほぼデザインが固まったあとに相談したのですが、玉砕でした。

 

どんなアイデアだったかは、まだ諦めていないので内緒にさせてください。

 

気を取り直して、デザインし直し

そして、こんな感じにしました。オレンジ色と言えば、みかん。甘酸っぱいジューシーなみかんを紙面いっぱいに表現するため、みかんを大胆に配置したいと思いました。文字を書く枡目の部分は、刷り色を薄くすれば、記述にも影響しないことでしょう。
 
が、「いくらなんでもこれはデカすぎだろ」
 
というツッコミがありました。当然です笑。あっさりこの案は却下。

 


小日向さんのラフ案

小日向さんのラフ案
小日向さんのラフ案

「鋼導管」にも通ずる余白使いで枡目を取り囲み、みかんは大きさよりも数で攻めようという案でした。
というなか、メールに小日向さんのふとした一言が。

「個人的にはオレンジといえば冷凍みかんで、網模様にしてもらいたいところです。でも色が変わってしまうか」

冷凍みかんだから網模様って…みかん本体は何処へ笑
するとhoririumさんからほどなくして、
 

網模様のデザイン届きました(笑)

それが網だけ見ていても、不思議とみかんが思い浮かぶ!
この網、なんだかよくわからないですけど、どうしてかわからないですけど、みかん以上にみかんっぽくて、昭和の味がしませんか?
 
三人で、網に関するやり取りがはじまります。

「あらぬ方向に行きだしたなw」

「あらぬ方向とはw。いつもどおりですね笑」

「もう、あの網のことしか考えられない!」

「よし、もう、これはみかんも入れて2色で行くしかない!」
「いやそもそもみかんだからw」
「網をデザインしたら、パソコンがフリーズした!」

「印刷屋に網の現物を入稿するしかないかw」

「網に入ったみかんを周囲に配置してみよう」

「うーん、まとまらんw とにかくこれではうるさすぎるw」

「先の外側にみかんを配置して、網をかける作戦が良さそうだ」

 

と、やっと落ち着きました。

 

細かい調整がはじまる

ここから、細かい調整がはじまります。当方のメールの抜粋です。

hoririumさん、いつもすみませんm(_ _)m

 

1.網はもう少し大きくても良いように思いました
2.網にゆらぎがあると良いなぁと思いました
3.魚尾のみかんは5個は多くて食べられません笑
4.赤はもうちょっと薄めの色でも良いかなと思いました

 

などといった細かな調整がはじまると、hoririumさんはこちらの要望を超える調整をしてきます笑

 

ゆらぎは想像以上に気持ちよく出来上がり、同時にその網のほつれを使って、5文字区切りを表現しようというアイデアをhoririumさんが入れてきました。さすがです。

 

また、5個のみかんは多いという話については、小日向さんが「一般の冷凍みかんは4個入りが多いようだ」という話を持ってきまして笑、4個になりました。

 

この他に、「魚尾の部分の輪切りみかんは菊の御紋に見えないような工夫を入れてほしい」「いやいや、菊の御紋は16弁だから大丈夫」だとか、「輪切りは12房あるが、これは時計のように使うこともできるのではないか」とか、いろいろ出てきましたが、完成に近づいていきました。

 

そして、名前、、、

さて、デザインがだいぶ完成に近づいてきたので、名前です。

 

命名は、小日向さんからの案を待ちます。

 

いくつかの名前候補がありましたが、最終的にこの「蜜柑網」になりました。他の候補については、元号と同様、公表しないことにいたします。が、いくつか、候補があった中でこれに決めました。

 

最後の最後に、、、

小日向姐さんが、「みかんを網の向こう側と、網のこっち側に分けてほしい」と。。。
なんでも「皮をむく前のものは網の下に。むいてあったり、断面になっていたりするものは網の上にあってほしい」のだそうで。。。なるほど気持ちはわかる話ではありましたが、hoririumさんもこれには困ったでしょうねぇ、、、と思っていたら、しっかりそのへん実現してくるあたりがhoririumさんの職人芸です。

 

実は、この他に印刷時の大きな課題があったのですが、これはあたぼうに会ったときに聞いてみてください。

以上で、蜜柑網の制作話は終わりです。いつも紆余曲折を経て、最終盤にたどり着きますが、3人はいつもいいものを作ろうと頑張っています。同時に、楽しみながら作ってもいます。

 

テイストが変わったというご意見があることも承知しておりますが、少なくとも私佐川は「愉しく文字を書く」をサポートする点に軸足をおいていることには変わりありません。
今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。

2019年4月3日